企業のオウンドポッドキャスト制作を手掛けるPitPaは、ポッドキャスト番組『オウンドポッドキャストインタビューbyPitPa』を運営しています。
こちらの番組では、企業ポッドキャスト配信者をゲストに招き、様々なポッドキャストの制作裏話を聞くことで、新しくポッドキャストで発信をしたいと思う皆様に有益な情報をお届けしています。また、PitPaブログでも、その内容を一部編集して公開してまいります。
第7回のゲストは、株式会社ハースト婦人画報社。ファッション・ライフスタイルマガジン『ELLE(エル)』などを中心としたメディアを手がけています。
『ELLE』日本版は1989年に雑誌として立ち上がり、1996年にオンライン版がスタート。日本のインターネット黎明期から、紙とデジタル両軸での運用を始め、最近はSNSも活用しながら発信を行っているそうです。
2019年には、ポッドキャスト番組「開運セラピー『生き方のセンス』の磨き方」を開始。星読みヒーラーのyujiさんと美容家の本島彩帆里さんをホストに迎えた番組は、ファンからの熱い支持を集め、書籍化まで果たしました。今回は、様々な人の繋がりを活かすことでゼロから番組を作り上げた『ELLE』のアラキさんに、立ち上げの経緯や運営の感触をお伺いしました。
目の前の面白い「お喋り」を音声で届けたい。テキストだけでは伝わらない魅力をポッドキャストで配信へ
───ポッドキャスト番組『開運セラピー「生き方のセンス」の磨き方』は、どういった経緯で始めることになったのでしょうか?
『ELLE』はグローバルで展開しているメディアなので、海外のメンバーを交えたミーティングで定期的に各国の情報をシェアし合っているのですが、2019年ぐらいに、「ポッドキャストが欧米で盛り上がっているという事例共有がありました。それを受けて弊社社長から、「日本でもポッドキャストを始めてみたらどうか」という意見が降りてきまして、結果やってみることになりました。
私はポットキャスト担当というわけではないのですが、興味があったので手を挙げたという形です。
───会社の方から、「ポッドキャストをやってみてはどうか」という提案があったんですね。欧米でのポッドキャストの成功事例が紹介されたというお話でしたが、具体的にはどのように成功していたのでしょうか?
『ELLE』や関連メディアの番組が成功しているというよりも、ポッドキャスト自体のダウンロード数が海外で伸びていて、特にアメリカではオカルトや心霊系のコンテンツがすごく流行っている、という話でした。ファッション系でも、ブロガーのような方々がファッションショーの解説を2人でトークする番組が人気だそうです。
───番組の内容は、どのように決めていかれたのですか?
これまでにポッドキャストはやったことがないので、初めはどんな番組を立ち上げれば良いか分かりませんでした。
一方で、ちょうどその頃、『ELLE』の企画でyujiさんに出会い、2000ワードくらいのコラムを書いていただいていました。yujiさんは、星を読んで生き方の方向性をSNSで発信する「星読みヒーラー」として活躍されている方です。
コラムも本当に素晴らしい文章で素敵だったんですが、yujiさんの特徴でもあるスピード感のある話し方がすごく面白かったので、どうにかして語りの面白さを伝えたいと思っていました。
そこにポットキャストの話があったので、音声コンテンツならyujiさんの軽妙な語り口が伝わるかもしれないと思い、チャレンジすることを決めました。
───打ち合わせなどをされている時に、yujiさんの喋りを面白いと感じていらっしゃったということですか?
もともとyujiさんはトークショーなどを定期的にやっていらして、私も聞いていたので、お話上手ということは感じていました。そこで、yujiさんのマネージャーさんに「yujiさんはすごくお喋りが上手だから、ポッドキャストで音声コンテンツをやりたい」という話をしたところ、快諾いただきました。
さらにちょうどその頃、ダイエット美容家の本島彩帆里さんとyujiさんが、インスタライブやYouTubeを一緒に配信しているという話も聞きまして。私たちも本島さんと親交があったので、「お二人のコンテンツという形で、新しくポッドキャスト番組を作ろう」と話が進み作り始めました。
───では、海外で流行っているコンテンツを研究して活かすというよりは、今目の前にある面白い材料を起点に作ってみる、というスタンスが強かったのでしょうか。
メディアがやる番組なので、やはりユーザーとの親和性は重視しなければいけないと思っていて。当時の2019年は、ポッドキャストでは英会話や時事問題系のコンテンツの再生回数が多かったのですが、どちらも『ELLE』という媒体からは遠いジャンルだと感じました。
私たちがやるとしたら、やっぱりファッションや女性のライフスタイル、エンパワーメントに関する番組をやりたい。そう思った時に、自己啓発や占いというコンテンツは、日本のユーザーとの親和性があり、しかも当時あまり他にない内容でもあったので、ぴったりかなと思いました。
───お二人を軸にポッドキャスト番組を作ることが決まった後、「開運セラピー『生き方のセンス』の磨き方」というテーマはどのように決められたのでしょうか。yujiさんが『ELLE』の中で、もともとコラムとして連載していたものをポッドキャスト化した形ですか?
実はまったく別物なんです。コラムはコラムで並行してやっていて、ポッドキャストに関しては、週1配信でリスナーの皆さんのお悩みに毎回答えていく形式で進行していました。
───ポッドキャストを立ち上げたばかりの頃は、リスナーさんからのお悩みの寄稿数が少なくありませんでしたか?お悩みを募集するうえで、何か工夫をされていたのでしょうか。
実は、ポッドキャストのローンチと同じタイミングで、 2000人規模の『ELLE』のイベントがあったんです。ちょうど良い機会だと思い、チラシを配って宣伝をして、まずはポッドキャストの認知を広げました。
あとはやはり、もともとyujiさんのファンの方が非常に多いことに助けられました。ちょうど、Twitterやブログでyujiさんのファンがどんどん形成されていっているタイミングでもあったので、ポッドキャストのお悩みも100通ぐらいは初めから来ている状況でした。
——それはすごいですね。
お悩みは、『ELLE』のデジタル版の方にフォームを作り、随時募集していました。収録前に集計して、yujiさんと一緒に答えるお悩みをセレクトし、番組内で実際に答える、という形式で進めました。お悩みが読まれた方には、協賛スポンサーになっていただいていたブランドさんのヘッドフォンをプレゼントして、お便り投稿のインセンティブもつけていました。
───協賛スポンサーさんは、番組が始まった当初からついていたのでしょうか?
番組を始めて半年ぐらいの早い段階から、ブランドさんがついてくださいました。ブランドさんの日本での商品ローンチのタイミングだったので、 お金をいただくというよりも、商品を提供いただく形のスポンサードをしていただいていました。
開始当初から安定した再生回数を記録。ホストのファンの方々に支えられて人気を維持できた
───いざ番組が始まって、手応えはいかがでしたか。
ポッドキャストに参入しているメディアがそこまでたくさんなかったこともあり、早い段階でジャンル内のランキングに入ることができました。初速が良かった分、そのままずっと続けられた感じもありますね。
さらに、ちょうど人気が上がっていたyujiさんや本島さんたちの勢いに乗っかることができた点が良かったと思っています。お二人のファンがSNSの告知を通して聞きに来てくださるので、安定した再生回数を保つことができました。
───では始めてからは、右肩上がりにどんどん伸びていった感じでしょうか?
実は伸びているというよりも、初めからずっと安定しています。
だいたい、エピソードが配信された月に5000から7000回ぐらいのダウンロード視聴数があって、いま全部で120エピソードぐらいあります。途中から聞き始めた方が、また最初から全部聞いてくれることもあります。例えば、一番初めの2019年に配信したエピソードは、いまトータルで5万回再生されているので、初回からずっと安定して毎月1000回ずつくらい聞かれている状況です。
───最新話だけ聞かれるのではなく、過去回も含めて平均して聞かれているのですね。
そうですね。ただ、星座別の上半期占いなど、みなさんにすごく関係のありそうなコンテンツをやると、再生数が倍ぐらいに伸びます。そうした回をきっかけにうちの番組を知ってくださり、初めから聞いてくださる方も多かったです。
───いま再生数のお話をいただきましたが、他にも追っている数字はあったのでしょうか?
Apple、Spotifyなど配信先をいくつか分けているので、どこ経由の再生が多いかはウォッチしていました。
実際には、『ELLE』のサイトに埋め込んだSpotifyを聞いてくれる方が一番多く、全体の6割ぐらいを占めています。yujiさんが毎週Twitterで告知をしてくれる時に、うちのサイトのリンクを貼ってくれるからだと思います。
制作陣とホストがワンチームに。和気あいあいと楽しんで進められた番組制作
───ホストであるyujiさんや本島さんも、番組の宣伝を自主的にやってくださっていたのですね。アラキさんがいらっしゃる番組制作サイドと出演するホストさんが、一緒になって番組を盛り上げる雰囲気ができていたのでしょうか。
制作サイドが主導してお願いするというよりも、みなさんで考えながらやっていくことをすごく重要視していました。
お悩みに関しても、一方的にこちらで選ぶというよりは、「どれが良いでしょうね」と相談しながら決めていきます。あとは例えば、一度郊外収録として、制作陣全員で郊外に1泊2日で行って、その場で収録する試みもしてみました。制作をお願いしていたプロデューサーの方のご実家がやっていらっしゃる旅館に泊まりに行って、収録してみたり(笑)
いろいろ楽しみながらやりたいことをやっていたので、親交が深まり、ホストのお二人も番組を自分ごとにしてくださった結果、積極的に宣伝にも関わっていただけたのかなと思います。
───台本を作ったり企画を考えたりするところから、ホストの方に意見を聞き、ときには打ち合わせにも入ってもらっていたのですね。
私たちは、初めのナレーションと最後に言うこと、お悩みの内容だけを用意し、あとはフリートークという形でいつも台本をお渡ししていました。yujiさんも、お悩みは見ていらっしゃるものの、本島さんと現場で会って、その場のフィーリングで自由に話してくださっていました。
自由にやっていただいたおかげで、本当のおしゃべり感、ナチュラルな感じが出て、そうした雰囲気がリスナーの方に受けてもいたので、空気感を大事にしていました。
───毎週配信されているということは、毎週収録されていたんですか?それとも、一度に何回か分を録ったのでしょうか。
収録1回につき、4〜5エピソード録っていましたね。yujiさんも、最初の回よりも4回目、5回目の方が口が回るようになっていて(笑)でも1エピソードあたり20〜30分ぐらいあるので、4〜5本録るとなると3時間くらいかかるんですよね。かなり脳みそを使う感じでやっていただいていました。
ただ、「週刊運気予報」という、yujiさんに配信の次の週のことを喋っていただくコンテンツを毎回付けることで、録り溜めた感が出ないように工夫していました。
番組の集大成としての書籍化。音声コンテンツならではのファンの「熱量」を感じられた
───現在はどのような形式で配信されているのですか?
1年前ぐらいに方針を変えて、現在は定期的に配信はしていません。やはり音声コンテンツだけでのマネタイズはなかなか厳しいものがありました。
そんな中、コロナになってインスタライブが流行り、クライアントからの需要もすごく増えまして。ニーズのあるインスタライブで実施して、音源をそのままポッドキャストに格納する形が一番効率的かもしれない、という話になりました。以来定期的にインスタライブを開催し、yujiさんと本島さんに一緒に出ていただいた回の音声をポッドキャストに格納する、という形式が直近1年の運用方法になっています。
───番組の方針を変えるにあたって、書籍化の話はどういった経緯で出てきたのでしょうか。
番組を続けている間に、yujiさんの執筆活動もすごく多くなり、本もここ3年間ぐらい出し続けていらっしゃいました。yujiさんが懇意にされているワニブックスの編集部の方から、私たちの番組の書籍化に興味を持っているという話をいただきました。全然知らない出版社の方にお願いするよりも、懇意にされているところにお願いした方が良いという話になり、トントン拍子に話が進んでいきました。
───書籍は、実際に作ってみていかがでしたか?
出来上がってみたら良い意味で私たちのイメージと全然違っていましたね。ポッドキャストは、先ほども申し上げたように、本当に雑談のような感じだったんです。リスナーさんのお悩みが番組の軸としてあるものの、ホストのお二人に思い思いにお話をしていただいていました。
でも本にしてみると、本当に綺麗にまとまっていて。いろいろなエピソードをすごく分かりやすくまとめていただいたので、「こんなに良いことを喋っていたんだな」と改めて確認できました。番組を運営していた側からすると、綺麗な思い出のアルバムができたようで、すごく感謝しています。
───とても良いお話ですね。yujiさんたちとのポッドキャストを2年半やった結果、一番良かったこと、発見があったことは何でしたか?
ファッションサイトは、テキストと写真のみのフラットコンテンツが多い中、音声が加わることで表現の幅が広がり、新しく見えるという発見は良かったと思います。
そして、ファンの深度や熱量に関して、音声コンテンツのエンゲージメントはすごく高いと感じました。フラットコンテンツだけでは獲得できなかったような熱い読者の方々と繋がれた点は、『ELLE』として得られた財産だと思っています。
───お悩み寄稿以外でも、音声コンテンツでファンの方々の熱量を感じた瞬間はありましたか?
ポッドキャストだとフォームに寄せられるコメントしか見ることができませんが、例えばインスタライブをすると、リアルタイムでどんどんコメントが来るんです。1秒に1個のような速さでみなさん反応してくださるので、やはりyujiさんと本島さんのコンテンツは、他の内容の配信と比べても反響があると感じました。
今後の音声コンテンツ化にも期待!SDGsをテーマにした新しいプラットフォーム「ELLE ACTIVE! for SDGs」
───最後に、アラキさんの方から、紹介や告知がありましたらお願いいたします。
『ELLE』は、女性をエンパワーメントするという目的を軸に出来上がっているメディアです。今は、「ELLE ACTIVE! for SDGs」というSDGsをテーマにした新しい取り組みのプラットフォームを作っています。環境問題はもちろん、女性のエンパワーメントやダイバーシティなど、SDGsに関わるコンテンツを全体的に強化していて、イベントも定期的に行っています。『ELLE』のサイトトップでも紹介していて、関連コンテンツをまとめてご覧いただけます。
https://www.elle.com/jp/elle-active/
また機会があれば、こうした内容を音声コンテンツ化して届けたいとも思っています。地球の温暖化や人類の未来といったテーマは、みなさん関心のあることだと思いますが、「具体的に何をしたら良いのか」「世界ではどういうことが行われているのか」といった情報が日本は圧倒的に少ないと感じます。
今も記事としては配信しているのですが、テキストで書くとどうしても遠く感じられ、「難しそう」「めんどくさそう」と敬遠されがちなんです。セミナーなどに行けばいろいろな情報が入ってくるとは思いますが、とはいえみなさんお忙しい。そこで、隙間時間にこうした情報をお届けできる音声コンテンツがあると、すごく良いなと思っています。
音声版はこちらから