Podcast番組を多数てがけるプロデューサーが語る、人を動かす「ヒット番組」の作り方

様々なジャンルの人気Podcast番組を制作しているPitPaでは、常に”ヒットする番組にはどんな要素があるのか”を議論しながら制作を進めています。週に1度は話題のエピソードや番組を聞き込み、全社でそのエッセンスを共有する会議も実施。今回は、日々多くの人気コンテンツを聞いているプロデューサー富山に、Podcastで人気番組を作る秘訣について聞きました。前回のPodcastのビジネスモデルについて話した記事とともに是非読んでみてください。

アメリカで進んで”科学される”ヒット番組の作り方

――毎週行われている、ヒットコンテンツの共有会議ってどんなものなんですか?

社員全員で番組を1~2個聞いてきて、「これがよかった」「最近はこんなトレンドがあるらしい」というようなことを話してますね。

あとは、ヒットコンテンツを分析した海外の記事なんかも社内でシェアしてます。アメリカを筆頭に海外では、”ヒットを科学する”ような記事が日本に比べると沢山ある。日本ではラジオの人気番組がPodcastでも人気を集めてはいますが、まだPodcast発のヒット番組は比較的少ないですから、日本でウケる番組を作るためには、海外の事例を参考にしながらヒットの要素を探り続けることが必要ですね。

――アメリカでは、Podcastの制作体制が違うんですかね?

日本は一部放送局が作っているものを除いて、個人で運営されているPodcastが多いですよね。アメリカではランキング上位にほとんど個人はいないんです。Podcastの制作会社が数多く立ち上がっている。面白いコンテンツを作るための研究も進んでいます。

――なるほど。他に違いはありますか?

アメリカでPodcastといえば、ホストを立ててストーリーテリング形式で進んでいくものが王道。日本ではトーク番組が主流ですが、アメリカでトーク番組だとジョー・ローガンの番組が有名なくらいです。

それから、ジャンルとしては「事件」や「歴史」を扱ったものが多いです。日本が独特なのは、Podcastの”教材的な使い方”。英会話の番組が日本ではよくランキング上位に入っていますけど、アメリカではPodcastは教育というよりも、エンタメの側面が大きいです。

――それは結構違いますね!とある人が、「アメリカは車社会だから、日本とはPodcastを聞く環境が違うのかも」と言っていてすごく納得したんですが、エンタメ要素が強いのも、そういった、Podcastを聞くシーンが違うんじゃないですかね。

実はアメリカでも、一番よくPodcastが聞かれているのは自宅や職場なんです。イヤホンやスマートスピーカーが発展してきているので、「ながら聞き」ができる環境がかなり広がっているのだと思います。ですから、日本でも今後、Podcastをエンタメとして楽しみたいというニーズは高まってくるんじゃないだろうかと思っています。

アメリカの人気番組に学ぶ、成功に必要なもの

――それでは、人気番組に共通している要素ってどんなものがあるんでしょう。

いくつかあるのでご紹介していきますね。まず、アメリカの人気番組は「Xを語ります。なぜならYが面白いからです」という構成がすごく科学されています。例えば、ガーデニングの番組をやるとして、ただガーデニングを話題にしているだけじゃ、誰も聞き続けてくれない。だから「この番組ではガーデニングを話します。なぜなら、軒先に花を植えることによって、店舗の売上があがるというデータがでているからです」という風に設計する。多くの人が番組を聞きたくなる理由というのが考え抜かれているし、それを番組の中で上手に紹介しているんですね。

――なるほど。確かに後半の理由が追加された方が断然聞いてみたい。

それから、アメリカではストーリーテリング形式の番組が多いからかもしれませんが、1分から、長くても1分半くらいで次々話題が変わるように作られています。少しずつ話題をずらしながら、どんどん話題を移行していく。同じ話題を続けていると、リスナーが飽きて離脱しちゃうんですね。

――結構慌ただしそうにも聞こえますけど、番組の内容にもよりそうですよね。ストーリーテリング形式の番組ってどんな内容なんですか?

番組をガイドするホストを立てて、そのホストが語りかけるようにストーリーを展開していく番組が多いんですね。会話を聞かせると言うよりも、起承転結をつけた物語を聞かせていく形式。

――日本でもストーリーテリング形式で人気な番組ってあります?

例えば『COTEN RADIO』さんとかですかね。「今日はコレを話します。というのも、●●が興味深いからです」というのを話した上で、面白い出来事を順番に語っていく。エピソードの「XとY」もしっかり設計されてますよね。

――確かにCOTEN RADIO面白いですよね〜!周りにもファンが多いです。PitPaでもホスト形式で進めている番組はあるんですか?

同じく歴史番組の「ボイスドラマで学ぶ『日本の歴史』はナビゲーターを立ててますね。
。先程のXとYの話をすると、例えば、ナビゲーターが「今回は室町幕府を開いた足利尊氏の話です。実は尊氏は、足利家当主の妾の次男坊という、武家社会では決して表舞台に出れない人間だったのです。ではなぜ彼が征夷大将軍という武家の最高権力者にまで登ることができたのか、その奇想天外な人生をご紹介します。」という内容を冒頭に話してエピソードに入っていくようにしてますね。「XとY」をちゃんと作りこんで、テンポよくストーリーを進めていく方が離脱率は低くなります。

――その他に番組制作で大事にしていることはありますか?

ストーリーを作っていく時に、細かい描写を入れて、リスナーがイメージしやすいようにしていますね。やはり言葉だけ、音声だけの番組なので、リスナーが頭の中で想像しやすくする努力は必要です。話している方は、頭の中にすでにイメージがあるので、詳細をすっ飛ばして話してしまうんですけど、初めて聞いたリスナーは内容を全然イメージできなかったりする。だからこそ、ホストと制作側でわかりにくい部分をフィードバックしながら作っていくようにしています。

社会に意見を述べ、人を動かすことがヒットをつくる

――最近番組作りでチャレンジされていることはありますか?

この記事を参考に、“コミュニティができる番組作り”ができないかチャレンジしています。記事では、「検索すればでてくる情報を教える番組」、「専門家だけが知り得る情報を伝える番組」、「番組を中心にしたコミュニティが形成される番組」、「人を動かす番組」の順番で、”良い番組”であると紹介しています。最終的に、Podcast番組は、誰かを動かすような発信をしていかなければならないと書かれているんですね。

――それは素晴らしいですね。確かに、人気番組って、リスナーを動かす力があると思います。紹介した映画を見たくなったり……

例えば海外では、『シリアル』という有罪判決が下った事件を掘り下げる番組の事例があります。事件の概要の他に、事件を冤罪だと思っている人たちの意見を紹介しながら、ホストもその内容を考察して意見を述べるような番組になっていて。その中で以前、リスナーが「これはやっぱり冤罪なんじゃないか」と盛り上がったエピソードがあったんです。判決から20年くらい経った事件なんですけれども、やがてリスナーたちのアクションによって再審が行われることになりました、すごいですよね。番組を聞いて、リスナーが行動を起こすような番組。それを目指すことが成功する番組をつくる秘訣だということですね。

――それはすごい。社会を動かしてるんですもんね。ムーブメントを作れる番組って、確かにパワーのある番組だと思います。でも、それってすごく作るのが難しそう。

先程話したのは番組が目指すべき方向性ですが、ホストが話す時に意識する内容というのも紹介されています。一番初歩的なものは”レポート”。「こんなことがありました」という事実を話すだけ。もう少し高度なものは、そこに自分なりの”分析”をしてみるということですね。さらに高度なものが、分析した結果をもとに”意見を言う”こと。そして、最も番組を良いものにするホストの役割は”リスナーを動かす”こと、と紹介しています。グーグルで調べたらわかるようなことを紹介するような番組はほぼ聞かれない。ユーザーが聞いてアクションを起こしたくなる番組づくりに貢献できるホストこそ、革新的なヒットを作っていくという考え方ですね。

――これは、ホストの責任重大だなあ(笑)自分の意見があって、それを不特定多数に伝わるように話せる人じゃないと。

アメリカではホストがすごく大事だと言われています。番組作りはまず「何を語りたいか」、そしてそのためのホストは誰なのか?を探すところから始まると言われています。

仮説検証を日々繰り返す。PitPa流番組制作の裏側

――色んな”いい番組づくりの秘訣”を教えてくださりありがとうございました。PitPaではこういった知識も生かして番組作りをしているんですか?

そうですね。必ず番組を作る前には、これらの知識をもとに作成した「コンセプトシート」をつくります。番組で伝えたい「XとY」、あとはリスナーのペルソナもコンセプトシートではっきりさせます。

――すごい。どれくらいのペースで作ってるんですか?

オリジナル番組も含めると、月に2~3番組新しく作ってますね。社内完結で作るオリジナル番組は、僕たちが持っている仮説の検証の場としての役割を担っていることも多いので、スピーディに検証を行いながら、より良い番組を作っていけるように日々模索しています。

――ありがとうございます。これからも沢山の挑戦的な新番組が生まれそうですね。これからも番組を楽しみにしてます!